東芝、SpursEngine のオープン・プラットフォーム化を加速 - 秋葉原イベントでSDK無償公開や複数枚での並列処理技術を発表

東芝、SpursEngine のオープン・プラットフォーム化を加速
秋葉原イベントでSDK無償公開や複数枚での並列処理技術を発表

図1:東芝セミコンダクター社が開催した
「SpursEngine start-up!」 東芝セミコンダクター社が開催した「SpursEngine start-up!」

 東芝セミコンダクター社は、6日に秋葉原のリナックスカフェでプライベート・イベント「SpursEngine start-up!」を開催した(図1)。

 今回のイベントにおいて、SpursEngineのソフトウェア開発環境である「SpursEngine SDK」(Software Development Kit)の無償公開やSpursEngine搭載ボードのスケーラブルな運用への対応技術、今後リリースされるSpursEngine対応アプリケーションのロードマップなどが、東芝とSpursEngineパートナー各社の発表により明らかにされた。

 SpursEngineは、Cell /B.E.を元に東芝が開発したメディアストリーミングプロセサである。 これまでに、東芝PC&ネットワーク社がAVノートパソコン「Qosmio」のSpursEngine搭載機種を、リードテックリサーチとトムソン・カノープスがSpursEngine搭載ボードを開発、発売している。アプリケーション・ソフトウェアでは、コーレルやサイバーリンク、トムソン・カノープス、CRI・ミドルウェアといったソフトウェア・ベンダ各社が動画編集ソフトウェアやエンコーダなどでのSpursEngine対応を表明していた。

SDKの無償公開でオープン・プラットフォーム化へシフト

 まず、今回の各社による発表の中でビジネス的に最もインパクトがあると考えられるのが、SDKの無償公開である。これまで東芝はSDKの公開や頒布に関しては慎重な姿勢を取っており、何らかの取引や契約のある開発企業にだけSDKを貸与していた。同社のそのような方針が、今回の発表により大きく転換されることになった。

 SDKの無償公開は、SpursEngine搭載ボード「WinFast PxVC1100」を11月下旬より発売開始したリードテックのウェブサイトを通じて12月中より行われる予定である。このSDKには、高速エンコード、高速トランスコード、顔検出、SPEプログラミングの4つの機能がある。今回のSDK公開では、超解像技術とハンドジェスチャー技術は対象外とした。
 このSDKを使うと、これまでに東芝が公開していた「FACEMATION」や「顔 DE ナビ」のようなアプリケーションをユーザ自身で開発することが可能となる。

 イベントの最後に講演を行った、東芝セミコンダクター社先端SoC開発センターの森健一氏は、超解像技術についてはノーコメント、ハンドジェスチャーについては使いにくく一般の開発者の方々向けに公開できるレベルに無いために今回は公開を見送ったとした。 しかし、超解像技術については、Windows Media Player用の超解像再生向けプラグインをSDKに同梱するとし、ハンドジェスチャーのミドルウェアは要望があれば公開を検討したい、と述べそれぞれユーザにできる限りの配慮をした結果であることをうかがわせた。

図2:東芝セミコンダクター社 システムLSI事業部 先端SoC開発センターの森氏 東芝セミコンダクター社 システムLSI事業部 先端SoC開発センターの森氏
図3:複数個のSpursEngineにより並列処理が可能となることを説明する、東芝セミコンダクター社 先端SoC応用技術部・課長の古山氏 複数個のSpursEngineにより並列処理が可能となることを説明する、東芝セミコンダクター社 先端SoC応用技術部・課長の古山氏
図4:FIRECODER Bluの複数枚使用による並列処理を説明した、トムソン・カノープスの石倉氏 FIRECODER Bluの複数枚使用による並列処理を説明した、トムソン・カノープスの石倉氏

 また、森氏は講演の最後に個人的な希望としながらも、SpursEngineにおける「OpenCL」対応にも含みを持たせた。OpenCLは、アップルが提案し、CPUやGPUのメーカー、アプリケーション・ベンダ各社と規格の策定を行っているC言語ベースの汎用計算ライブラリや技術である。森氏は、SpursEngineがOpenCLに正式に対応すれば、CPU、GPU、SpursEngineのいずれでも動くアプリケーション開発が可能になるとした(図 2)。

複数枚のSpursEngineボードで並列処理が可能に

 次に、技術的にインパクトのあった発表が、SpursEngine搭載ボードの複数枚搭載により、システム全体での映像処理性能をスケーラブルに増加させることが可能になる、というものだ。(図3)今回のイベントでは、トムソン・カノープスが同社のSpursEngine搭載ボード「FIRECODER Blu」で対応することを公式に表明した。(図4)

 SpursEngineはCell/B.E.の半分の数の「SPE」(Synergistic Processing Element)を搭載し、動作周波数もほぼ半分の1.5GHzである。このため、SpursEngineの処理性能はCell/B.E.のおよそ4分の1、消費電力は数分の一という仕様になっている。これは、SpursEngineがパソコンや情報家電向けのメディア処理用アクセラレータとして開発されたためである。

 今回のイベントで明らかになったSpursEngineの並列処理を活用する場合、例えば、SpursEngine搭載ボードを2枚パソコンに実装し2個のSpursEngineを並列処理させることによって、SpursEngine搭載ボード1枚で行う処理のほぼ倍の映像処理性能が得られることになる。

 パソコン向けグラフィック処理では、NVIDIAが「Scalable Link Interface」として、AMD/ATIが「CrossFire」として、それぞれGPUの並列処理によりグラフィック性能を高速化させる技術を持っている。今回のSpursEngineのスケーラブルな並列処理対応では、コーデックやアップコンバージョンなどの映像処理を必要に応じてさらに高速化できる技術として今後さらに注目を集めそうだ。

SpursEngine対応アプリケーションの増加

 三点目としては、有償・無償のいずれでもSpursEngine対応ソフトウェアが大幅に増加することが明らかになった(図 5)。

図5:主要なSpursEngine対応アプリケーション・ソフトウェア
製品名 ベンダ 製品の機能 価格 提供時期
AVCHDコンバータ トムソン・カノープス エンコード/トランスコード 無償*1 “近日中”
CRI SpursCoder CRI・ミドルウェア エンコード/トランスコード 無償*2 2008年11月
DVD MovieWriter コーレル DVDオーサリング *3 2008年11月
EDIUS Pro トムソン・カノープス 動画編集 ¥79,800 2009年上半期*
FIRECODER WRITER トムソン・カノープス BD/DVD書き込み、トランスコード *4 2008年11月
LoiloScope Loilo 動画編集 N/A 2009年春〜夏*
PowerDirector サイバーリンク 動画編集 N/A N/A
TMPGEnc 4.0 Xpress ペガシス エンコード・動画編集 ¥14,096 2009年1Q*
SpursCoder Adobe プラグイン CRI・ミドルウェア N/A N/A 2009年1月*

*:提供予定時期
*1:トムソン・カノープス社のHD編集環境が必要
*2:個人使用に限り無償。 企業などは別途協議が必要
*3:リードテック WinFast PxVC1100 に同梱
*4:同社製 FIRECODER Blu に同梱
N/A:詳細は不詳または未定

 トムソン・カノープスは、同社が無償で提供している「AVCHDコンバータ」をSpursEngineに対応させる意向であることを明らかにしていた。今回、その具体的な対応予定にさらに言及し、バージョン3からFIRECODER Bluと連携させて使用可能になるとした。

図6:SpursCoderの高機能版、アドビ社Premiere CS3用プラグインなどを発表した、CRI・ミドルウェアの薮野氏  SpursCoderの高機能版、アドビ社Premiere CS3用プラグインなどを発表した、CRI・ミドルウェアの薮野氏
図7:マルチフロントエンド・アプリケーション戦略を説明する、ペガシス・グローバル営業部の齋藤氏 マルチフロントエンド・アプリケーション戦略を説明する、ペガシス・グローバル営業部の齋藤氏

 CRI・ミドルウェアは、「CRI SpursCoder」の個人向け無償公開に加えて、SpursCoderの高機能版(有償)とAdobe Premiere CS3用にSpursCoder Adobeプラグイン(仮称)を2009年1月にリリースするロードマップを示した。また、同社はSpursEngineハードウェアとソフトウェア両方で画質のチューンアップを行っていくと言う方針も明らかにした。(図6)

 「TMPGEncシリーズ」など個人ユーザ向けエンコードソフトで定評のあるペガシスは、「TMPGEnc 4.0 Xpress」を2009年第1四半期にSpursEngine対応とするなどのロードマップを示した。同社はGPGPUにも積極的に取り組んでいるが、SpursEngine対応を公式に表明し、「マルチフロントエンド・アプリケーションとしての進化を模索する」(同社 グローバル営業の齋藤氏)としている。マルチフロントエンド・アプリケーションの実装例として、斉藤氏はTMPGEnc 4.0 Xpress 上で「CUDA」によるGPUでのフィルタ処理とSpursEngineによるエンコード処理をデモンストレーションで示した。
 またSpursEngineによりエンコードを高速化するとしながらも、デコードについては当面は同社の開発したコードを利用するなど、独自の取り組みであることを強調した。(図 7)

映像処理エンジンの普及と応用が加速へ

 SDKの無償公開やSpursEngine搭載カードの複数枚使用による並列処理など、SpursEngineのソフトウェア開発が加速する可能性が高まってきたと考えられる。今後、SpursEngineを搭載したパソコンの数量がさらに増えれば、それに応じてソフトウェアの供給も増える。

 ハイビジョン映像のエンコードやトランスコード、アップコンバージョンなどは今後も徐々に対応が増えると思われる。さらに、顔認識機能を活用したパソコンベースの高付加価値型のテレビ会議システムや監視カメラ・システムなど現在のパソコンが持つ演算性能だけでは実現が難しいアプリケーションを開発する環境が整ってきたと言えるだろう。

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