「今後パソコン市場を牽引するのは、ホーム・ネットワークである」

「今後パソコン市場を牽引するのは、ホーム・ネットワークである」

インタビュー:台湾 CyberLink 社・Vice President Johnny Tseng氏

台湾 CyberLink Corp.で開発部門のVice Presidentを務めるJohnny Tseng氏
台湾CyberLink Corp.で開発部門のVice Presidentを務めるJohnny Tseng氏

 「今後のパソコン市場を牽引するのは、ホーム・ネットワークであると考えています」。 こう語るのは、台湾のCyberLink Corp.で開発部門のVice Presidentを務めるJohnny Tseng氏である。

CyberLink社は、ビデオ編集関連のソフトを開発・販売する企業で、主にOEMビジネスを展開している。顧客には、米Hewlett-Packard Co.、米Dell Inc.、台湾Acer Inc.などのパソコンのトップ・メーカーが名を連ねる。同氏が描くホーム・ネットワークとは、ユーザーが撮り貯めた写真やビデオ、音楽を、インターネットを介して友人たちと共有することができるようなソフトウェア・ソリューションである。Johnny Tseng氏に、CyberLinkの現状や今後のHDビデオ関連の動向について聞いた。
(聞き手:宮崎信行=テクノアソシエーツ)

 問 CyberLinkは多くの映像関連ソフトを販売していますが、主力製品は何ですか。

 答 弊社は、マルチメディア分野をターゲットとした多くのソフトウェア製品を販売しています。主力製品の一つに「PowerCinema」(図1)があります。PowerCinemaはOEM(Original Equipment Manufacturing)製品です。この製品は総合エンタテインメント・プラットフォームで、DVD, ビデオ, 写真, 音楽を再生したり、アナログ/デジタル・テレビ番組のタイムシフト再生などが行えます。弊社は、OEM顧客に対してPowerCinemaをカスタマイズして提供しています。

図1 総合エンタテインメント・プラットフォーム「PowerCinema」
総合エンタテインメント・プラットフォーム「PowerCinema」
図2 DVD再生ソフト「PowerDVD」
DVD再生ソフト「PowerDVD」

一方、ユーザーに最も知られているCyberLinkの製品はDVD再生ソフト「PowerDVD」(図2)です。なぜなら、PowerDVDは市販製品で、パッケージにはCyberLinkのロゴと社名、製品名が印刷されているからです。PowerCinemaはOEM製品であるため、Dell、HP、AcerといったOEM顧客が独自の名前を付けてパソコンに添付します。販売数量と売上高はPowerCinemaが大きいのですが、知名度の点ではPowerDVDが勝っています。

問 売上全体に占めるPowerCinemaの比率や市場でのシェアを教えてください。

答 PowerCinemaの売上比率を申し上げるのは非常に困難です。PowerCinema単体で販売することは少ないからです。PowerCinema はCyberLinkのフラグシップの製品で、「MagicDirector」、 「PowerDirector」など他の製品と組み合わせて販売することが多いのです。全製品の売り上げは、現在、約1億米ドルに達しています。 現在、米国向けでは主にHP、Dellに、欧州向けではAcerとHPにPowerCinemaを供給しています。

問 ここ数年の売上高は、どのように推移しているのでしょうか。

答 財政状況は極めて良好です。ここ数年の平均的な売上高の伸び率は約20%です。OEMビジネスの売上高が全体の約8割を占めています。残り2割が市販ビジネスの売り上げです。現在、われわれは市販ビジネスの売り上げを伸ばすことに力を入れています。将来、市販ビジネスの比率を3割~4割に高めたいと考えています。

現在、パソコンのトップ・メーカーにはわれわれの製品がかなり浸透しています。そのため、今後OEMビジネスで高い成長を期待することは難しくなりつつあります。ただし、日本市場は違います。弊社はまだ、日本で主要なカスタマーを持っていません。日本市場では、依然、弱い立場にあり、日本向けのOEMビジネスを拡大する余地は大きいと考えています。

問 御社の競合相手はどのような企業ですか。

答 多少、製品分野が違うのですが、複数の競合企業が存在します。例えば、台湾のIntervideoです。Intervideoとは主にDVD再生ソフトの分野で競合しています。ただ、Intervideoは、昨年、カナダのCorelに買収されました。ビデオ編集やDVDの書き込みソフトの分野では、Corelに買収されたUleadや、米国のSonic Solutions、ドイツのNeroが挙げられます。


将来、メディア・プロセサがパソコンに標準搭載へ

問 電子産業は非常に変化の激しい産業です。その変化に追随するため、研究開発に力を入れていると思いますが、どのような製品の研究開発に注力されているのでしょうか。

答 研究開発のターゲットはもちろん、ビデオ編集ソフトです。特にポスト・プロセシングに力を入れています。例えば、画像の補間技術や、SD(Standard Definition)映像からHD(High Definition)映像への高画質化の技術です。ビデオ解析技術にも力を入れています。ビデオ解析技術は、例えばビデオ映像を解析してインデキシングするなどの技術で、「MagicSports」のような製品に組み込まれています。

現在、弊社は、こうしたインテリジェントなソフトの開発に注力しています。この分野への投資は、現状の製品を成功させるうえで極めて重要です。

このほか、DLNA(Digital Living Network Alliance)対応のホーム・ネットワーク・ソリューション関連のソフト開発にも力を入れています。例えば、ユーザーが自分のパソコンの中に撮りためた写真やビデオ、音楽を、DLNAを介して家の中のどこからでもDLNAにつながった機器を使用し、友人たちと共有することができるようなソリューションです。

こうした変化は、3年前くらいから始まり、現在も続いています。Cyberlinkは、今後ともデジタル・メディア産業における新たなトレンドに対して、新しい技術で対応していきます。Cyberlinkはすでに、自宅のパソコンにあるコンテンツに、いつでも、どこからでもリモート・アクセス可能な「CyberLink Live」というホーム・ソリューションを提供しています。また、Blu-rayディスクやHD DVDを再生したり、編集したり、それらのメディアに書き込んだりするソフトも提供しています。われわれは、一つの媒体だけでなく、多様な媒体に対応していきます。こうしたソリューションは、PowerDVD、PowerDirector、PowerProducerといったデスクトップ・パソコン向けの既存ソリューションと補完関係にあります。

われわれは、現在、記憶媒体の大きな変化の渦中にあります。私は、製品、サービス、経営の革新的なソリューションによって、こうした変化に適用できる企業が生き残れると考えています。

問 現在、日本では映像機器のHD化が進んでいます。フルHD対応のデジタル・テレビが販売され、デジタル・ビデオでもAVCHD(Advanced Video Codec High Definition)規格の製品が登場しています。ところが、HDビデオの加工・編集には時間がかかります。こうした課題を解決するには、どのようなソリューションが考えられるのでしょうか。

答 HDビデオの編集には、高い演算性能を持つCPUが必要になります。例えば、高性能なパソコンに搭載される「Core2Duo」でも、HDビデオを編集するのに十分な演算性能を備えているとは言えません。むしろ逆に、メインCPUの性能を抑えた普及版のパソコンに、専用のハードウェア・エンジンを搭載し、HDビデオの編集処理を実行させるというのが一つのソリューションになるでしょう。

ただし、このソリューションにも課題はあります。ソフトウェア・ベンダーの立場からすると、専用のハードウェア・エンジンを搭載したソリューションでは、例えシェアがトップになっても数が出ません。

ポーティングの問題もあります。専用ハードウェア・エンジンを提供するメーカーが違うと、API(Application Program Interface)が異なります。現状では、いろいろなハードウェア・メーカーのAPIに対応したソフトウェアを開発するのは困難です。開発費やサポートの負担が大きくなるからです。将来は標準的なAPIが出来ると思いますが、現時点ではAPIを統一するのは難しいと思います。

汎用CPUを利用するソリューションと専用ハードウェアを使うソリューションにはそれぞれ一長一短があります。前者の場合、ソフトウェアのフレキシビリティは高いのですが、高性能なCPUが必要となりシステム全体としては高価になるでしょう。その一方で、専用ハードウェアのソリューションはコストが安くなるかも知れませんが、処理する機能がある程度限定されてしまいます。

問 台湾でHDビデオはどの程度普及しているのでしょうか。

答 台湾では、HDビデオはまだ普及していません。HDビデオを見るのは、先進的なユーザーに限られます。ただ、2008年には、台湾を含め、日本や米国でBlu-rayなどのHDビデオ機器市場が立ち上がると考えています。もちろん、DVD機器と比較してHDビデオ機器の出荷数量はそう多くはないでしょう。しかし、CyberLinkにとってはよいビジネス・チャンスと捉えています。

問 過去30年でパソコンのアーキテクチャは大きく変わりました。特に大きな変化は、GPUが標準的に搭載されるようになったことです。GPUは、3次元ゲーム・ソフトなどのハードウェア・エンジンとして使用されます。現在、パソコンでビデオを処理する機会が増えつつあります。GPUと同じように、ビデオ処理の専用エンジンとして、新たなプロセサがパソコンに標準的に搭載されるようになるのでしょうか。

答 将来は、そうなるでしょう。ただし、現状は、多くの異なるハードウェアがあり、ポーティングという大変な作業が必要になります。将来、ハードウェアやAPIが一つの標準に集約され、メディア処理を行うメディア・プロセサがパソコンに搭載されるようになるでしょう。

問 どのようなアプリケーションが、次世代のパソコン市場を牽引するのでしょうか。

答 今後のパソコン市場を牽引するのは、ホーム・ネットワークであると考えています。例えば、無線LANを介して外部で撮影した写真をサーバーにアーカイブし、アーカイブした写真を、リビング・ルームに居ながら友人たちと共有できるような環境です。子供、家族、友人たちと過去の出来事、例えば過去に撮影した写真や1980年代の音楽を共有できる環境の実現が、次世代のパソコン市場、すなわちホーム・ネットワーク・パソコン市場を牽引するでしょう。

このほか、デジタル・フォンもキーデバイスになるでしょう。われわれは、家庭内のデジタル・フォンのインテリジェンス・ネットワーク向けソフトウェアに多くの投資をしています。デジタル・フォンを介して多くのデータがパソコンにアーカイブされると、そのコンテンツを認識・分析するソフトウェアが必要になります。われわれは、今後、こうしたホーム・ネットワーク向けソフトウェアが極めて重要であると考えています。



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