東芝セミコンダクター社は、2008年7月25日に「SpursEngine Developers Forum 2008」を開催した。「SpursEngine」は、東芝が開発した「Cell/B.E.」の設計資産を継承するメディア・ストリーミング・プロセサである。今回のフォーラムは、SpursEngineを搭載する製品の開発者向けに、SpursEngineのアーキテクチャや、開発環境、プログラミング手法、サード・パーティの製品・サービスを説明する初めてのイベントだった。
最初に挨拶に立った東芝セミコンダクター社首席技監の斎藤光男氏は、「パソコン市場でデザイン・ウィンすることにより、安定的な供給体制とコスト軽減を加速させる。今後3年間でSpursEngineを、600万個以上売り上げたい」、とSpursEngineビジネスに対する意気込みを語った(図1)。
SpursEngineは、すでに2008年7月下旬に東芝が発売したAVノート・パソコン「Qosmio」に搭載されている。SpursEngineの特徴は、パソコンのホスト・プロセサなどのコプロセサとして、映像の伸張、加工、圧縮を高速に実行できることにある。例えば、SD映像からHD映像へのアップコンバージョンである。MPEG-2やH.264で圧縮されたSD映像を取り込み、ハードウェア・デコーダで伸張し、Cell/B.E.に集積されている「SPE(Synergistic Processor Element)」を使ってHD化し、ハードウェア・エンコーダで再び圧縮する。「Core 2 Duo」(2.8GHz)で実行する場合に比べて、10倍程度の高速化が可能だ。この技術は超解像技術としてQosmio に搭載されている。斎藤氏は、こうしたSpursEngine活用の映像ソリューションを幅広く展開するため、多くのパートナー企業との協業関係を構築したいと言う。
次に、東芝セミコンダクター社先端SoC開発センター センター長の増渕美生氏が「SpursEngineのアーキテクチャとその狙い」と題して講演した(図2)。今後、地上波デジタル放送、デジタル・ビデオカメラ、ブルーレイディスクなどの普及に伴い、HDコンテンツが急速に増加する(図3)。SDコンテンツと比較して、HDコンテンツは6倍のバンド幅が必要になる。ところが、「現状のパソコンではリアルタイムのデコードが精一杯で、リアルタイムのエンコードは困難である」、と同氏は指摘した。その一方で、増え続けるビデオ・コンテンツのインデクシングや検索には、フレキシブルなアルゴリズムに対応するため高度なソフトウェア処理が不可欠であるとした。
増渕氏は、こうした現状を分析したうえでSpursEngineのアーキテクチャについて解説した。SpursEngineは、SPEを四つ、さらにMPEG-2とH.264のエンコーダとデコーダを集積している。SPEは、SIMD*1演算命令や128本×128ビットのレジスタ・ファイル、256Kバイトのローカル・ストレージを備える。その特徴の一つは、キャッシュ・メモリーに代えて、ローカル・ストレ−ジを内蔵している点にある。「大容量のキャッシュ・メモリーは、トランジスタ当たりの性能向上が小さく、しかもミス・ヒットの際のペナリティが大き過ぎる」、と同氏は言う。
大量のデータを処理するSpursEngineは、内部に強力なデータ転送機能を内蔵している。DMAを集積し、主メモリーとローカル・ストレージ間、異なるSPEのローカル・ストレージ間の高速データ転送を可能にしている。また、SPEおよびデコーダ、エンコーダ間も高速のデータ・バスで接続している。
増渕氏は、2008年以降、パソコン分野にメディア・ストリーミング・プロセサの波が到来するとみる(図4)。1990年代にゲーム向けGPUが登場し、パソコンのアーキテクチャとして定着したように、今後、映像や動画の処理エンジンとしてメディア・ストリーミング・プロセサが定着すると予測する。同氏は、講演の最後にSpursEngineのロードマップを示し、2009年から2010年にかけて「SpursEngineU」を製品化することを明らかにした。
注)
*1) SIMD (Single Instruction Multi Data): SIMDはプロセッサなどの設計方式の1つで、1個の命令で複数データの処理を同時に行う並列処理手法