東芝PC&ネットワーク社は、2007年10月2日~6日に幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2007」でメディア・ストリーミング処理エンジン「SpursEngine」を搭載した「Qosmio」を参考展示し、次世代パソコンの姿を示した(図1)。これまでメインCPUで処理していた映像の加工編集や画像認識をSpursEngineで実行することによってメインCPUの負荷を50%以上軽減するとともに、高度な加工編集や画像認識を高速で実行できるようにした。 パソコンは、1980年代~90年代にかけて汎用プロセサの進化によって大きく発展してきた。90年代~2000年代初頭にかけては、ゲームなどに3次元のグラフィックス処理能力が求められ、汎用プロセサに加えてグラフィックス・プロセサが搭載された。今後パソコンには、フルHDなどの映像加工編集能力や、ビデオ画像の認識能力が求められる。それにはメインCPUの処理能力を越える高い演算性能が不可欠だ。そこで必要となるのが、映像のストリーミング処理や認識処理を行う専用エンジンである。 今回搭載したSpursEngineは、「Cell Broadband Engine(Cell/B.E.)」に集積されていた演算処理用のSPEを4個搭載している(詳細は「東芝セミコン社、「Cell」の設計思想を受け継ぐプロセサ「SpursEngine」を明らかに」を参照)。SPEの搭載個数と動作周波数をCell/B.E.の半分程度に抑えることによって、ノートパソコンに搭載できる程度に消費電力を低減した。SpursEngineの開発を担当した東芝セミコンダクター社システムLSI事業部先端SoC開発センターセンター長の増渕美生氏は「SpursEngineを開発するうえで、性能と消費電力のバランスを取ることが最も難しかった」と語っている。
東芝PC&ネットワーク社は、CEATECの会場で、映像の加工編集機能や画像認識機能を使った四つのデモを実演した。第一は、標準画質(SD:720×480画素)で撮影した映像をハイビジョン画質(フルHD:1920×1080画素)に変換するという「超解像技術」のデモンストレーションである。このデモでは、MPEG-4AVC/H.264で圧縮したSDの映像をデコードし、フルHDの映像にアップコンバートしてパソコン画面に表示する。会場では、従来技術でアップコンバートした場合と超解像技術を使った場合の映像を比較していた(図2)。
こうした一連の演算処理にはSpursEngineが使われている。SpursEngineを搭載していないパソコンを使った場合、フルHDのエンコードにはデコードの10倍以上の時間がかかる。SpursEngine搭載のパソコンはフルHDへのエンコードもリアルタイムで実行でき、AVCHDなどのフルHD映像の編集作業に威力を発揮しそうだ。
第二は、「顔deナビ」と呼ぶデモンストレーションである(図3)。Qosmioでテレビ番組などを録画するとき、出演している人物の顔のサムネールを録画と同時に作成する。サムネールに表示された出演者の顔をクリックすると、その出演者が映っていた場面から再生できる。これによって、長時間の映像から視聴者が見たいと思う場面を瞬時に探し出し、その場面から映像を再生することが可能になる。SpursEngineは、出演者の顔を認識し、サムネールを作成する演算処理に使われる。
第三は、「ジェスチャリモコン」のデモンストレーションである(図4)。パソコンに搭載されたカメラを使って人の手や指の動きをリアルタイムに認識し、その動き(ハンド・ジェスチャ)によってパソコンを操作するというデモである。例えば、カメラに向かって手をジャンケンのグーの形に握ると、メニュー画面が現れてマウスカーソルを操作できるようになる。この状態で手を上下左右に動かせば、手の動きに応じてカーソルが移動する。クリックは親指を立てることによって実行される。SpursEngineは、ハンド・ジェスチャの認識処理に使われる。
第四は、人の顔をリアルタイムに認識し,化粧や髪型を変えたうえでその人の顔をリアルタイムにパソコンに表示する「FACEMATION」と呼ぶデモンストレーションである(図5)。昨年のCEATECでCell/B.E.を使って実演していたデモをSpursEngine搭載のノートパソコンで実行したもの。このデモでは、カメラで撮影した人の顔に対して,顔の向きや動きを認識するのにSpursEngineを使っている。
この処理をメインCPUだけで実行すると、メインCPUには80%以上の負荷がかかる。しかもフレームレートは半分程度に落ちてしまう。SpursEngineを使うことによって、メインCPUの負荷を30~40%に低減でき、しかも30fps(frame per second) のフレームレートを実現できる。
今回の展示で東芝は、メディア・ストリーミング処理エンジンを搭載したパソコンが映像の編集や画像の認識に威力を発揮することを示した。今後、SpursEngine搭載のパソコンの製品化に期待が集まることになるだろう。
(宮崎信行=テクノアソシエーツ)