高圧縮率のH.264コーデックを採用したBlu-ray規格やAVCHD形式のハイビジョン映像データを取り扱うことを得意とするパソコンやAV機器の普及にともない、それらの形式に対応する動画編集ソフトウェアが出揃ってきた。
「CEATEC JAPAN 2008」でも、一般ユーザー向けを中心に動画編集ソフトのベンダ各社が最新の製品や技術を展示、AVCHD対応の本格化と実用に耐える編集機能をアピールしていた。(図1)
2006年以降、ソニーやパナソニック、キヤノンなどの家電メーカー各社がハイビジョン対応ビデオカメラを相次いで発表、市場投入してきたが、2007年頃までは動画編集ソフトの分野でAVCHD方式に対応したパッケージがほとんど無かった。
また、ビデオカメラに付属の編集ソフトなどを使用する場合でも、高価な最新のクアッドコアCPUを搭載したパソコンでなければ、実用的なレベルでのAVCHD方式ハイビジョン映像の編集作業は困難だった。このため、ユーザーはハイビジョン撮影した録画をビデオカメラそのものか、AVCHD方式の再生に対応したブルーレイ・プレイヤーなどで見るだけで、パソコンでのビデオ編集を行うことは難しいというのが実情だった。
AVCHD形式での映像データの取り回しが厄介だと認識するユーザーは、現時点でも操作の軽いMPEG-2コーデックをベースとしたHDV形式や動画編集ソフト・ベンダ独自形式の中間フォーマットなどを好む傾向がある。
2008年に入ってから、AVCHDを取り巻くこのような状況が急速に変わり始めた。動画編集ソフトを開発、販売するベンダが相次いでAVCHDビデオカメラからの入力をサポートし始めたのである。(図2 )
CEATEC JAPAN 2008でも、AVCHD対応の動画編集ソフトウェアを展示するベンダが見られ、この分野でのハイビジョン化が確実に進みつつある現状が確認できた。

「SpursEngine」を映像処理エンジンとして事業展開している東芝セミコンダクター社ブースでは、4社のパートナー・ベンダが動画編集関連のデモンストレーションやベンダーセミナーを行っていた。
まず、カナダCorel社の展示していたDVDオーサリングソフト「DVD MovieWriter」(図3)は、SpursEngine対応版が東芝のAVノートパソコン「Qosmio」のSpursEngine搭載機種に同梱され既に市場に提供が開始されているが、今回同じ展示エリアで共同出展していた台湾Leadtek Research社のSpursEngine搭載ボード「WinFast PxVC1100」にも付属ソフトとしてバンドルされることが明らかにされている。(図4)
台湾CyberLink社は、製品の提供時期は未定としていたが、SpursEngine対応「PowerDirector」を出展していた(図 5)。また、同社の日本法人、サイバーリンクジャパン代表取締役の尾藤伸一氏がベンダー・セミナーにおいてPowerDirectorや「TrueTheaterテクノロジー」など同社のSpursEngine関連ソリューションを来場者に訴えかけていた(図 6)。
トムソン・カノープス社は、SpursEngine搭載ボード「Firecoder Blu」(図 7、8)およびそれに対応した動画編集ソフトウェア「EDIUS Pro」(図 9)を展示した。EDIUS の製品ユーザーは、プロの動画編集者や映像制作業者が大半であり、一般ユーザーでも動画編集に熟練したユーザーが多い。同社のSpursEngine採用により、プロシューマや一般ユーザーだけでなく事業用途でのAVCHD対応ソフトウェアやノンリニア編集システムの普及が加速することが予想される。
ゲーム機などのエンターテインメント業界向けミドルウェアを提供するCRI・ミドルウェアは、「CRIWARE for SpursEngine エンコード&デコードライブラリCRI Sofdec」を出展した(図10)。同社では、ソフトウェア開発者向けのライブラリ、ミドルウェアとしての事業化を進めているが、ニーズがあれば簡易的なインタフェースを付けることによって自社での製品化も検討するとしている。CRI・ミドルウェア社のロードマップには、アドビ システムズ社のビジュアルエフェクツ・ツール「After Effects」用のプラグインが具体的な製品化計画の候補として提示されていた(図 11)。
GPGPUによる手法を映像編集に応用するソフトウェアとしては、米AMD社のブースでLoilo社が出展していたLoiloScopeがある(図12)。LoiloScopeは、従来の動画編集ソフトとは異なるインタフェースや簡単な操作を特徴としている。同社によれば、AMD/ATI社のGPUアクセラレーションに対応したバージョンを現在開発中とのことである。
今回のCEATECで確認できたように、今後もAVCHD対応の動画編集ソフトウェアやノンリニア編集システムの普及が進むことは間違いない。当面の焦点となるのは、映像処理エンジンとしてGPUの活用が主流となるのか、あるいはSpursEngineのような専用の映像処理エンジンの普及が進むのか、であろう。
この点についてはベンダによって温度差があり、対応プラットフォームの選択には慎重な姿勢を取る企業もある。しかしながら、動画編集に使うパソコンやソフトウェアのコストや機能・性能、映像の品質、使い勝手などユーザーによって求められるニーズが異なることを考えると、それぞれの方式が棲み分けることで普及が進む可能性もある。
例えば、ペガシスは既に出回っているハードウェアの優位性よりGPGPUによるメディア処理にいち早く対応を表明している。一方、今回CEATEC会場で話を聞いたあるベンダの説明員は、「現在使用可能なハードウェアでAVCHDなどH.264動画の高品位な編集を実用的に行えるのは、SpursEngineだけ」との見解を示していた。
中長期的には、DVやHDVなど従来のテープメディアがAVCHDなどのノンリニアなメディアに置き換えられる方向に進むことは既定の路線である。 そんな中、DV/HDVユーザーからの移行や動画投稿サイトの高画質化などに伴って新しくハイビジョン動画編集を行うユーザーの増加などにより、AVCHD対応のパソコンや編集ソフト、ノンリニア編集システムの市場が全体として成長するものと考えられる。