激変が予想されるハイビジョン・ビデオの編集環境 - CEATEC JAPAN 2008にみる技術動向①

激変が予想されるハイビジョン・ビデオの編集環境
CEATEC JAPAN 2008にみる技術動向①

図1:東芝の超解像技術の説明を聞く参加者 東芝の超解像技術の説明を聞く参加者
図2:東芝セミコンダクター社のSpursEngineの展示 東芝セミコンダクター社のSpursEngineの展示

 日本で最大級のエレクトロニクス分野の展示会「CEATEC JAPAN 2008」が9月30日~10月4日に幕張で開催された。景気低迷の影響で、昨年に比べ展示規模は縮小したものの、大画面テレビを中心に最先端のエレクトロニクス技術が集結し、賑わいを見せた。

 今回のCEATECでは、HD分野で大きな動きが二つあった。一つはテレビ関連で、大画面化や薄型化が一段落し、競争の土俵が高画質化へと移行した点である。東芝が「超解像技術によるハイビジョンを高密度画質で再現」、ソニーが「世界初、ハイビジョン映像を14ビット相当の高諧調映像で出力CREAS」といったパネルを掲げ、ハイビジョン・テレビの高画質化技術を大々的に宣伝していた(図1)。

 もう一つが、これまでのハイビジョン・ビデオの編集環境を激変させる動きである。従来、デコード時間の7倍~10倍かかっていたハイビジョン・ビデオのエンコード時間を、ほぼリアルタイムで変換できるソリューションが複数登場してきた。東芝や米Advanced Micro Devices(AMD)社などがそれぞれ「SpursEngine」やGPGPU(General Purpose GPU)を使ったソリューションを紹介していた(図2)。こうした動きは、高画質なHD映像を見て、加工し、保存する環境が整い始めたことを示している。

ハイビジョン・ビデオのエンコードに、ハードとソフトの二つのソリューションが登場

 ハイビジョン・ビデオの編集・加工処理であるHD Processingとは、映像を撮って、見て、加工し、保存するという一連の作業を意味する。撮るというプロセスでは、ビデオカメラがキー・デバイスである。ハイビジョン・ビデオカメラの規格であるAVCHD規格の製品が2006年に登場して以来、わずか2年で「国内の販売比率が7割~8割に達した。」(パナソニック、ソニーなど)これは、フルHD大画面テレビの普及に後押しされ、SDビデオからハイビジョン・ビデオへの切り替えが一気に進んだことを意味している。

 加工は、撮影した映像にテロップを入れる、場面をつなぎ合わせる、特殊効果を施すなど、何らかの編集作業を行うことだ。パナソニックによると、「ビデオカメラを購入した2割~3割の人が、こうした編集作業を行う」という。編集作業は、通常、編集ビデオ・ソフトを使ってパソコンで作業することが多い。ところが、ハイビジョン・ビデオの編集は、とにかく時間がかかる。動作周波数2.5GHzの「Core2Duo」を使っても、エンコード作業にデコード時間の7倍~10倍かかる。例えば5分の映像のエンコードに35分~50分かかることになる。これでは実用的とは言い難い。今回、CEATECで登場した動きは、こうしたハイビジョン・ビデオ編集の課題を解決するためのソリューションである。

図3:Corel社のエンコードのベンチマーク結果 Corel社のエンコードのベンチマーク結果
図4:ソフト・ソリューションとハード・ソリューションの消費電力の比較 ソフト・ソリューションとハード・ソリューションの消費電力の比較 ペガシスが同社のエンコーディング・ソフトTMPGEnc 4.0 XPressを使って、1440×1080ドット、15秒のHD映像を、720×480ドットのDVD SD映像へ変換して出力するベンチマーク・テストを実施した。動画コーデックはMPEG-2。NVIDIA社の「GeForce GTX 280」(消費電力236W)を使った場合と、Intel社の「Core 2 Duo Q6700」(2.66GHz)を使った場合のエンコード時間を比較した。CPUのみのエンコード時間が3分58秒なのに対してCUDAでのエンコード時間が41秒と、GPUによる処理が6倍高速になるという。
図5:SpursEngineパートナーズ会の展示 SpursEngineパートナーズ会の展示

 今回のCEATECでは、ハイビジョン・ビデオのエンコード時間を短縮する技術としてハード・ソリューションとソフト・ソリューションという二つの方向性が見えてきた。前者は、MPEG-2やH.264の動画コーデック(デコーダ/エンコーダ)をLSI回路に実装し、高速に実行する(図3)。後者は、パソコンに搭載されている高性能なGPUを使ってソフトウェアでMPEG-2やH.264の動画コーデックを高速に実行する。

 前者の代表例が東芝の「SpursEngine」である。ハード・ソリューションであるため、搭載できる動画コーデックは限定されるものの、高速でしかも効率的なコーデック処理を実行できる。このためGPGPUと比べて消費電力が低い。SpursEngineの場合は十数Wである(図4)。

 一方後者の代表例がGPGPUのアプローチである。グラフィック・プロセサの浮動小数点演算能力を汎用プロセサとして使用し、動画コーデックを高速に実行する。プログラムには、グラフィック処理用のシェーダ言語やC言語を使う。ソフトウェアで処理するため、各種コーデックに対応しやすいものの、その一方で高性能なGPUを使うため、消費電力は100W以上と極めて高くなる。

SpursEngine VS GPGPU

 今回のCEATECでは、東芝セミコンダクター社を中心に、SpursEngineパートナーズ会の参加企業がハードウェア・ソリューションを展示していた。参加したのは、トムソン・カノープス、台湾Leadtek社、台湾Corel社、台湾CyberLink社、CRI・ミドルウェア、東芝情報システムの6社である(図5)。

 トムソン・カノープスは、9月に発表した「FIRECODER Blu」を展示した。FIRECODER Bluは、SpursEngine搭載のPCI Expressボードで、H.264(AVCHD)からMPEG2へのファイル変換(逆も可)を実時間の1/4~1/5の時間で行うことができるという。プロ向けビデオ編集システムにユーザー基盤を持つトムソン・カノープスがSpursEngineを採用したことで、SpursEngineが同分野で一定のポジションを築くことになるだろう。

 一方、コンシューマ向けではLeadtek社の画像処理ボード「WinFast PxVC1100」が注目される。10月に製品化する予定で、台湾Corel社のSpursEngine対応DVDオーサリング・ツール「DVD MovieWriter」が同梱される。Leadtek社は今回、WinFast PxVC1100以外に同ボードを搭載した「エンコーダシステム」とソフトウェア開発向けの「ベアボーン・システム」を展示していた。展示のエンコーダシステムには、SpursEngineのほかに米Intel社のCore 2 Duo(Penryn)が搭載されていた。I/OとしてUSB2.0やDVI、HDMI、ギガビット イーサネットなどを備えており、パソコンにつないで簡単にハイビジョン動画の編集環境を構築することができる。同システムは、HD動画のエンコーディングに悩む映像編集会社も意識した製品になっている。

 今回のCEATECでは、ソフト・ソリューションとしてAMD社が、フルHD対応PC環境の普及を目指す「AMD HD! Experience」を紹介した。例えばAMD社は、米Adobe社のビデオ編集ソフト「Premiere Elements 4」をGPGPUによってアクセラレートし、HD動画のトランスコードを4倍高速化できることを示した。このほかに、「UVD(Universal Video Decoder)」と呼ぶ技術を紹介した。UVDはデコード処理ではあるが、GPUやチップセットに統合したグラフィックス・コアに実装し、H.264やMPEG-2のデコード処理を高速に実行する。AMDは、チップセットとGPUを組み合わせ、動画の変換、再生、編集という一連の作業の高速化を目指す。

 CEATECには出展していないが、グラフィック・プロセサ最大手の米NVIDIA社も同様な方向性を示している。ビデオ編集ソフトのペガシスと共同でNVIDIAのGPU向けC言語の統合開発環境である「CUDA (Compute unified device architecture)」を使って、ビデオ・エンコード・ソフト「TMPGEnc 4.0 XPress」をGPUに移植すると発表した。TMPGEnc 4.0 Xpressは、H.264やMPEG2のエンコードが可能である。

 いまのところ、こうしたソリューションの主戦場は、ハイビジョン・ビデオカメラが普及している日本である。海外では、大画面テレビが普及している米国でも、「ハイビジョン・ビデオカメラの販売比率は2割程度と低い」(ソニー)。しかし、「Blu-ray」と「HD DVD」の規格競争の決着で、海外でもHDコンテンツが普及し、「今後2年程度でビデオカメラのHD化の流れが加速する」(ソニー)とみる。日本市場でのハイビジョン・ビデオ向け編集ソリューションの競争は、その前哨戦となる。


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