台湾・Acer(エイサー)社は、米・Hewlett-Packard社、米・Dell Computer社についで、パソコンの世界市場シェアで第三位の主要パソコン・ベンダである。「Computex Taipei 2008」の同社ブースでは、同社として初めてのULPC*1(低価格サブノート・パソコン)「Aspire One」や、AVノートパソコン、ゲーマー用ハイスペックパソコンなどの展示が行われていたが、ULPC以外のパソコンではHD化もほぼ規定路線となりつつあることがうかがえた。そこではセグメンテーションやデザイン、ブランディングにおける戦略の優劣が、競争の激しいパソコン業界で競合優位性を得るカギとなることを見て取れる。
以下、Computex Taipei 2008 で展示されていたAcer社の製品ラインを例に、パソコンのHD化トレンドやHD関連要素技術の普及度の最新状況、同社の製品戦略についてレポートする。
(大場淳一=テクノアソシエーツ)
「Computex Taipei 2008」における同社ブースでは、台湾・ASUSTeK社の「Eee PC」に対抗する低価格サブノート・パソコン(エイサーではモバイル・インターネット・デバイスと呼んでいる)である、「Aspire One」(図1)が特に注目を集めていた一方、標準的なマルチメディア・パソコン、今年の3月に発表したAVノートパソコンである「Aspire Gemstone Blue」(図2-1、2-2)シリーズ、そしてゲーマー用ハイスペックPCの「Aspire PREDATOR」(図3-1、3-2)とフルラインナップのパソコン群を展示していた。
Aspire Oneなどの低価格ミニノート・パソコン以外の機種では、PCI Express インタフェースの搭載がほぼ標準的になっている。例えば、デスクトップ型マルチメディア・パソコンである「Aspire M5201」(図4)では PCI Express x16 および x1 を一個ずつ、ゲーマー用ハイスペック機のAspire PREDATOR では、x16 が三個、x1が二個、x8が一個というように、グラフィックボード用のx16とそれ以外の用途での拡張用に機種に応じて PCI Expressスロットを用意するという方向性が分かる。ノートパソコンのAspire Gemstone Blue では PCI Express x1 に基づくExpressCard x1 をサポートしている。
表示解像度についてもフルHD(1920 x 1080)規格に対応したグラフィック・ボードの採用により、多くの機種がフルHD規格またはそれ以上の解像度を実現している。なお、ノートパソコンのAspire Gemstone Blueでは、搭載する液晶の表示は 1366 × 768 とフルHDではないが、外部ディスプレイへ接続する場合、フルHD表示が可能となっている。
パソコンをフルHDなど大型の液晶ディスプレイに接続する場合には、HDMI*2規格に基づくインタフェース、いわゆるHDMI端子を用いることが多い。パソコンでもHD映像を扱う場合が増えてきたことで、ミッドレンジより上級の機種であれば従来のVGA端子に加えてHDMI端子をサポートする機種も増加しつつある。今回のAcerブースに展示してあったパソコンもそのトレンドに沿っていると言え、デスクトップのMシリーズ、AVノート型の Gemstone Blue のいずれでもHDMI端子がオプションとして提供されている。なお、ゲーマー向けのAspire PREDATORでは、採用グラフィック・ボードの規格によってHDMI端子ではなく、DVI-D端子でのサポートとなっているが、フルHD映像の表示と言う点では遜色がない。
フルHD映像をパソコンで扱う場合、グラフィック・ボードの高性能化が必須となるが、Acer 社のパソコンでもその傾向をはっきりと見ることができる。標準的なデスクトップ型マルチメディア機種である M5201シリーズではATI社の CrossFire X、PREDATORではNVIDIA社の3-way SLI*3というグラフィック・ボードの並列化技術をそれぞれ採用しHD映像や3D動画の再生時などにおけるグラフィック描画の高性能化を実現している。 AVノートパソコンのGemstone Blueでは、そのようなグラフィック・ボード並列化こそできないものの、NVIDIA社の「PureVideo HD」技術をサポートする「GeForce 9500M GS」 により、CPUの性能に依存することなくフルHD映像の再生をスムーズなものとしている。
フルHDの動画コンテンツが提供されるメディアとして Blu-ray Disc があるが、HD DVDとの標準化戦争などもあり、昨年までは本格的な普及が始まるには至っていなかった。それが、今年初めのHD DVD陣営の撤退により、事実上Blu-ray Discが次世代DVDの標準規格となり、いよいよBlu-ray Disc が本格普及の兆しを見せている。
それを裏付けるかのように、今回の Computex でもBlu-ray 対応をうたったパソコンや機器が増加していた。Acer社においても、デスクトップ型 Aspire Mシリーズ、AVノートPCのAspire Gemstone Blue、ゲーマー向けハイスペック機のAspire PREDATOR のいずれにおいてもBlu-ray Disc ドライブの搭載をオプションとして選択可能となっている。
今後、Blu-ray Discでのコンテンツ供給がさらに進み、またHDビデオカメラの動画規格でありBlu-ray と技術的に近いAVCHD*4規格での動画編集などがパソコンで普通に行われるようになれば、Blu-ray Discドライブのパソコンへの搭載もさらに進むものと思われる。
以上、主にHD動画の処理機能などに着目しAcer社のパソコン製品ライン間の比較分析を試みてみた。その結果、パソコンの製品戦略としてAcer社が強く意識していると思われる項目を挙げると、セグメンテーション、ブランディング、デザインの三つに集約される。
今後も、ムーアの法則に従ってパソコンのコスト当たりの性能は向上を続けるであろうし、HD動画の再生や処理なども普通にパソコンで行えるようになるであろう。また、パソコン業界における水平分業や標準化が進んだ結果として、性能や機能だけをウリに少品種を大量に売るということは難しくなりつつある。したがって、市場を顧客の属性毎に分け(セグメンテーション)、その顧客属性に合った機能や性能を最適なコストで実現できる製品を提供しなければ、成功は難しいであろう。
Acer社で言えば、Mシリーズはどちらかと言えば平均的な家庭でマルチメディアを楽しみたいユーザ向け、Gemstone Blueシリーズはより感性が高く、洗練されたユーザ向け、そしてPREDATORは、パソコンでゲームを楽しむマニア向けと、かなり明確なセグメンテーションが意識されている。そして、そのセグメンテーション戦略に沿って、各パソコン製品ラインのデザインが決まる。PREDATORのデザインは、パソコン・ゲームのヘビーユーザ層には受け入れられるであろうが、平均的な家庭ユーザやセンスの良さを追及するようなユーザからは恐らく否定的な反応が返ってくるだろう。
このように、明確なマーケット・セグメンテーションと製品デザインに基づいて、その製品ラインのブランディングが行われ、それが競合他社との差異化要因となる。Acer社にとっては、AVノート・パソコンなら Gemstone Blue、ゲーマー向けパソコンなら PREDATOR、というように消費者が連想してくれるようになれば、ブランディング戦略の成功ということになる。
Acer社としては、日本市場の本格的な開拓はこれからというところであるが、プレミアムブランドであるフェラーリ公認ノートパソコンや Gemstone シリーズの日本市場への投入など、存在感の向上を狙っている。世界市場では第三位の同社が日本市場でどこまで市場シェアを獲得できるか、今後も注目したい。
注)
*1) ULPC: Ultra-Low-cost PC または Ultra-Low-power PC
*2) HDMI: High Definition Multimedia Interface
*3) SLI: Scalable Line Interconnect
*4) AVCHD: Advanced Video Codec High Definition