最近、問題として認識され始めた「情報爆発」という言葉をご存知だろうか? 「情報爆発」とは、デジタル化されパソコンや情報家電などで利用可能となる情報やデータの量が急激に増大するにつれて、それを管理することが次第に難しくなりつつあることを言う。
「Hobbes' Internet Timeline」によれば、2006年11月の時点で世界のウェッブサイトの総数は1億を超えており、今日も増加の一途をたどっている。このような「情報爆発」に対する解決策として、インターネットでは「Yahoo!」や「Google」などの検索エンジンが登場し普及した。検索エンジンにより、パソコンや携帯電話さえ使いこなすことができれば、文字情報の検索が誰でも簡単に行えるようになった。
ところが、情報やデータは文字情報だけではなく、画像や動画、音声やそれらの複合したものもあり、「YouTube」や「ニコニコ動画」などの動画投稿・共有サイトの隆盛に代表されるように、このようなマルチメディア・データの検索に対する需要も次第に顕在化しつつある。そこで、いま世界中のベンチャー企業や研究者たちが実用化のための研究開発に取り組んでいる重要なテーマの一つが画像認識および画像検索技術だ。
例えば、米Riya社は同社の運営するショッピング・サイト 「Like.com」 で 「Likeness Search」という、表示された画像の一部をマウスのドラッグにより範囲指定することで、その部分の形状や色と似た製品をデータベースから検索して表示するというサービスを提供している。
Riya社の検索エンジンは、提供される画像の種類が同社と提携している販売業者の扱っている商品や衣類・宝飾品類などに限定されているなど、まだ汎用性に欠ける。しかし、この画像検索で扱える範囲がもっと一般的なものまで拡大されれば、ショッピングだけではなく日常的な使用に耐えるサービスになる可能性がある。
もちろん、検索エンジンの最大手である米Google社も画像検索への取り組みを行っていない訳ではない。Googleによる画像検索では、Riya社と異なり、あくまでも文字情報をキーワードとして入力する。そのキーワードに対応してGoogle社が関連付けた画像データを検索ユーザーに返すというものだ。2006年8月に画像認識や顔認識、バイオメトリクス(生体認証)などの技術を持っていた Neven Vision社を買収し、これらの技術を強化した。Google社によれば、Neven Vision社の技術を同社の画像整理編集ソフトである「Picasa」の機能強化に活用するということだ。
このように、インターネットでの検索では海外勢の動きが目立つが、情報家電なども範囲に入れると状況はやや異なっている。周知の通り、ビデオ・カメラや次世代型DVDレコーダーなどで製品開発の先端を走っているのは、松下電器産業やソニーなど、日本の電子機器メーカーである。
経済産業省は、ネットでの文字情報の検索ビジネスがパソコンのCPUやOSと同様に米国の大手企業による寡占化の状況に置かれていることから危機感を募らせている。2006年の夏に「情報大航海プロジェクト・コンソーシアム」を産官学で立ち上げるなど、日本全体としてマルチメディア分野での検索において巻き返しを図ろうとしている。
そんな経済産業省の思惑を裏付けるかのように、今年のCEATECでも有機ELテレビ、ハイビジョン・ビデオ・カメラや次世代型DVDレコーダーなどの最新製品・技術と共に注目を浴びていたのが、画像認識や画像検索技術を応用した民生用電子機器や技術である。
例えば、ソニーは「もう笑顔は逃がさない」というキャッチフレーズと共に、顔検出・画像認識技術を応用し、笑顔を検出して自動的にシャッターを切れるという「スマイルシャッター機能」を搭載した「サイバーショット」の最新機種を展示していた。(参考:CEATEC 2007 動画レポート@ソニーブース)
また、東芝はAVノートパソコン「Qosmio」の参考展示で、番組の録画と同時に出演者の顔画像やテロップ、音声を自動的に認識してインデックス化を行い、動画をシーンごとに整理やサムネール化を実行、見たいシーンを簡単に検索し再生することができるという映像インデキシング「顔deナビ」のデモンストレーションを行っていた。(参考:CEATEC 2007 動画レポート@東芝PC&ネットワーク社ブース)
東芝の映像インデキシング技術では、従来のノートパソコンでは処理負荷が大きく製品化が困難であった。しかし、同社が開発した 「SpursEngine 」を搭載することにより、ハイビジョン動画のH.264方式によるエンコードやデコードと同時に映像の自動インデキシングや容易な検索、閲覧、再生を省スペース・低消費電力で可能としている。SpursEngineは、ソニー、米IBMと共同で開発した高性能マルチコア・プロセッサ、Cellブロードバンド・エンジン (Cell/B.E.)の設計思想を受け継ぐストリーミング・プロセサである。
このように、画像の検索や認識の技術は研究開発の段階から、製品化・実用化の段階に入りつつある。情報家電機器やパソコンをつなぐインターネット上での画像認識・検索、そして医療用や事業用・産業用でのそれらの応用が徐々に進み、「情報爆発」時代におけるマルチメディア・データ検索という大きな課題への強力な解決策となることだろう。
(大場淳一=テクノアソシエーツ)