情報家電分野では、映像の高画質化が急速に進んでいる(図1、図2)。例えばデジタル・テレビでは、フルHD対応を謳った40インチを越える製品が各社から続々登場している。デジタル・ビデオ・カメラでは、HD画質を8cmのDVDディスクに録画できるAVCHD対応の製品が登場してきた。市場での激しい主導権争いがスタートするHD-DVDやBlu-ray Discなどは急速に低価格化が進む。フルHD対応の画質で動画を楽しむ環境が整いつつある。
その一方で、Webサイトにおける動画の利用が急拡大している。その代表例が「YouTube」である。動画サイトには、カムコーダなどで撮影された映像が加工編集されて掲載される(図3)。「YouTubeに投稿される映像の6~7割は加工編集されている」(ある大手編集ソフト・メーカー)とも言われる。動画サイトに掲載される映像の画質はいまのところQVGA程度だが、加工編集前のソースとして、今後フルHD対応機器からの映像が利用されることになるだろう。時代は確実に、個人がフルHDの動画を加工編集する方向へ向かっている。
ところが、こうしたフルHDの動画の加工編集を快適に実行するにはまだ課題は多い。その一つがフルHD動画の加工編集に使うパソコンの性能不足である。例えば、「『Core2Duo』搭載のデスクトップ・パソコンを使って、MPEG-4AVC/H.264の3分程度(デコード時間)のフルHD動画を加工編集した後、再エンコードするのにデコード時間の100倍、すなわち5時間程度かかる」(動画編集を手掛ける宇宙通信ヒットポップス事業部ゲッチャ編集部の高島章氏)という。これでは、快適な加工編集環境とはほど遠い。
こうした課題を解決する方法として、現在、いくつかの選択肢がある。第1の選択肢は、パソコンのメインプロセサの性能強化である。米Intel Corp.は、プロセサの性能を上げるためにマルチコア型のプロセサ「Core2 Quad」を製品化している。「Core2 Duo」に比べて性能を、1.5倍程度に高めている。
第2は、3Dグラフィックス処理に使うGPUにデコーダ/エンコーダ回路を搭載することだ。GPUメーカーである米NVIDIA Corp.などからは、MPEG-2などのデコーダ/エンコーダ回路を搭載した製品が販売されている。第3は、デコーダ/エンコーダを搭載した動画処理用の専用チップ(動画処理エンジン)を設けることだ。
それぞれの選択肢には一長一短がある。第1および第2の選択肢は、動画処理を含む複数のアプリケーションを1台のパソコンで実行するような場合に問題を生じやすい。例えば、プロセサのフル性能を動画処理に向けられず、動画の再生にコマ落ちが生じたり、逆にほかのアプリケーションの動作が遅くなったりすることがある。また、Core2 Quadと GPUは消費電力が数十Wと極めて高く、「ノートパソコンに対する解にはなりにくい」(ある大手編集ソフト・メーカー)。
第3の選択肢では、米Broadcom Corp.などのファブレス・メーカーがデコーダ/エンコーダ専用チップを、東芝セミコンダクター社がCell Broadband Engineに搭載したSPE(Synergistic Processor Element)とMPEG-4AVC/H.264とMPEG2のハードウェア・コーデックを組み合わせたチップ「SpursEngine」を開発している(図4)。前者は消費電力が数百mWと極めて低いメリットはあるものの、複数のコーデックや新たな規格に対応するのが難しい。東芝の方式なら、汎用の演算器を搭載しているため複数のコーデックや新たな規格に対応することが容易である。ただし、消費電力は10W台となる。
いずれの方式が主流になるにせよ、今後ますます、動画処理エンジンの必要性が高まることは確実だ。3Dの処理エンジンとして、GPUがパソコンの標準デバイスとして普及してきたように、動画処理エンジンが今後、新たなパソコンの標準デバイスとして普及する可能性は高い。(宮崎信行=テクノアソシエーツ)